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『掬水月在手 弄花香満衣』

景福寺では所蔵の軸を本堂の床の間に掲げさせていただいております。

今回のお軸は、唐代の詩人、宇良史の『春山夜月』の一節です。

「水を掬(きく)すれば 月 手に在り

 花を弄(ろう)ずれば 香 衣に満つ」

清らかな水を両手で掬(すく)うと、月が掌中の水に宿る。

天に冴えわたる「見られるもの」としての月が、「見るもの」としてのわれと一体になる。

馥郁(ふくいく)たる香りを漂わせる「見られるもの」としての美しい花を手折ると、

その花の香りが衣に移り、「見るもの」としてのわが全身から芳香を放つ。

この対句は、分別を超えた自他一如の妙境、月とわれ、花とわれが不二一体となることを表現したものです。

この心境を日常生活に当てはめると、読書三昧、仕事三昧のような、物事に没頭して雑念を離れた忘我の境地であるでしょう。

さらにこの句は、「朱に交われば赤くなる」ということも教えています。

人間は交わる友人や育つ環境、趣味嗜好などによって、いつしかその影響を受けその品性が高尚にも下劣にもなるものです。

道元禅師は、

「霧の中を歩くと知らない間に着物がしっとりとするように、すぐれた人に親しんでいると、

気が付かないうちに、自分もそのすぐれた人に近づいていくものだ」

と諭されています。

 

著者  西有穆山 禅師(にしありぼくざん)[1821~1910](直心浄国禅師)

青森県八戸出身。法光寺、中央寺、可睡斎の住職を歴任。横浜に西有寺を創建。

明治三十四年、大本山總持寺独住第三世貫首就任。明治四十三年示寂。世寿九十歳。

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